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8月28日(金)、南三陸森林組合のホールに於いて、
南三陸杉デザイン塾開校記念オープンセミナー『南三陸杉の魅力を、発信開始!』が開催されました。
多彩な顔ぶれの話を聞こうと集まったのは、町民のほか近隣の市民団体メンバー、
関連の企業関係者など予想を上回る80人近く。
メディア各社の取材も入り、南三陸杉で造られたホールは熱気に包まれました。
講演に先立ち「山さ、ございん」プロジェクト実行委員長 佐藤久一郎氏が開会の言葉として、「『南三陸杉デザイン塾』を立ち上げることで、天然の良材である南三陸杉にデザインという価値を付加し、日本中に力強く発信していく事業のスタートとしたい」と決意を述べました。
講演ラインアップのトップバッターとなったのは、南三陸町のグランドデザインに重要な役割で参画している隈研吾建築都市設計事務所の設計室長、名城俊樹氏です。
『南三陸杉を活用した町づくり』をタイトルに行われた記念講演は、まず、世界中で高く評価されている隈研吾氏の建築作品の中から、今回のプロジェクトの根源となる「木」を使った事例を写真で紹介。スターバックスの店舗から、浅草文化観光センターまで、斬新なデザインの中に木の持つぬくもりと和の伝統が息づいている美しい造形の連続に、参加者からは思わずため息が漏れていました。それを踏まえて、南三陸町の計画を改めて紹介。シンボルとなる志津川地区の人道橋「中橋」、漁村の賑わいを蘇えらせる商店街などがビジュアルとともに説明されました。他地域の作品と同様、美しさと機能を共に備えた計画には、耐久性に関する質問なども出て、関心と期待の高さを伺わせました。
続いて基調講演が「南三陸山の会」のメンバーから二本、行われました。
会長の高橋長晴氏は、『南三陸の林業の歴史とこれからの展開』と題し、日本で二番目に高い52メートルという杉が町内に存在することを引き合いに出し、伊達政宗の時代から続く、優れた「材」としての南三陸杉の潜在力を強調しました。
小野寺邦夫氏は『南三陸杉の特性とその魅力』のタイトルで、製材会社の立場から、まず他の木材と比しての杉の優位性、堅牢なだけでなく建物に使われると人を癒す気を発し、かつ健康に良い効果を発揮することが科学的に証明されていることを述べました。そして南三陸の杉に、伐採後、小野寺氏の会社で施している「低温乾燥」について紹介し、この工程が杉材に含まれる酵素を建築後も活かし続けることを語りました。

休憩後の第二部は、杉材と山を取り巻く南三陸の「物語」を紡ぐことで、南三陸の自然の奥深さと人間のなりわいとの緊密な関係に対する理解を来場者に深めてもらうのが狙いです。
まず、「波伝谷ふるさと資料館」で知られる南三陸ネイチャーセンター友の会・会長の鈴木卓也氏が、『南三陸の生きものの物語』のタイトルで講演。かつて南三陸にも生息していたことが確認されている ここ数年、見ることができなくなっている、南三陸の町鳥であり絶滅危惧種のイヌワシについて、原寸大の絵を広げながら解説。翼長が約2メートルにもなる長いイヌワシは、生い茂った森の中では必ずしも生き永らえられず、むしろ定期的に伐採される健全な林業環境の中にあってこそ生態系の頂点として生きられる、として、イヌワシ再生への願いを林業の再興に重ね合わせて熱く語りました。
講演の最後は、上山八幡宮禰宜の職にあり、南三陸の歴史文化にも詳しい工藤真弓さんによる『南三陸の祈りのかたちの物語』。汐見、大船沢といった地名が南三陸町の内陸に入ったエリアにもあることから、この地が昔から津波に襲われそれを先人が教訓として後世に残すために地名にした、という話は地元の住民にも、他の町から訪れた人にも深くうなずかせる力がありました。また神域の紙垂(しで)をきりこ美術の伝統につなげた語り、杉の年輪を、一度閉じた木の障害が次の「生」を人に役立つ材として始める印ととらえる感性は、神職ならではであり、かつ現世に生きる我々を励ます言葉として、共感の輪が広がりました。

第三部では、当日も布に印刷した旗の形で会場に掲げられていた「南三陸杉」のロゴマークを、博報堂のアートディレクター、杉山ユキさんがプレゼンテーション。
実行委員長に佐藤久一郎氏に紹介されて登壇した杉山氏は、はにかみながらも自身の名前がこの仕事に携わる縁の端緒になったと参加者を笑わせたあと、南三陸の町で山と人とのふれあいの中で得たインスピレーションを膨らませてマークをデザインした、と話しました。本セミナーで初披露された、イヌワシの羽ばたきが「三」のマークに収斂する動画映像は喝采を浴びました(動画映像はこのホームページでも間もなく公開します。)
最後にプロジェクト事務局長の水谷典雄氏からいよいよ開校する「南三陸杉デザイン塾」の内容紹介が行われ、参加が呼びかけられました。その場で入塾したいと表明した参加者もあり、事務局は手ごたえを感じていました。
終了後も熱気は収まらず、震災後、復興に力を注ぐ生活の中で久しぶりに会ったという友人同士が語り合う姿も見られる中、デザイン塾の開校に向けた準備をスタッフは本格的に始めていました。
南三陸町の計画を紹介する名城俊樹氏
熱心に講演に耳を傾ける参加者
南三陸杉デザイン塾のロゴマークと共に
左)「山さ、ございん」プロジェクト実行委員長 佐藤久一郎氏
右)博報堂 アートディレクター 杉山ユキさん