> ストーリー > 小野寺邦夫さん
津波に浚われ、町と共に姿を消した丸平木材株式会社。一世紀以上続く老舗木材店は、この試練をどう乗り越えたのか。大いなる魅力と無限の可能性を秘めた南三陸杉に賭けて奮闘する五代目・小野寺邦夫さんの挑戦が始まった。
 明治41年より南三陸町で木材の製材・加工・販売などを営んできた丸平木材株式会社。創業から百年を過ぎた2011年3月11日、大自然の脅威に圧倒され、高台にあった資材置き場を除くすべてが無になった。
「間近ですごい音をたてながら会社が流されていく光景は、まるで夢を見ているようで、水しぶきと土埃で町が見えなくなりました」
 こう語るのは、代表取締役の小野寺邦夫さん。震災直後こそ何もできずにいたが、3月末には資材置き場で生き残った木材を配達開始。仙台市を中心に復旧工事が進んでいったことから、お客さまにご迷惑をかけたくなかったという一心で、知り合いの倉庫の一角を借りて急遽仙台営業所を稼働させた。次は南三陸の本社や工場の再建が急ピッチで進んでいくと思われた。
 生産を開始できたのは、大震災から約1年1カ月後。当時の状況を振り返ると、工場などの生産部門を持つ企業が、この短期間で再建・再稼働できたことは早い方かもしれない。しかし、ここに至るまでは紆余曲折があった。
 町の中心部にあったかつての本社・工場での再建は不可能。高台にあった資材置き場を拡張し、本社と工場を建てることになったのだが、新しい建物を作る際に必要不可欠な調整池の手配が秋口まで難航。一方、会社は宮城県北部を担当する早期復旧チームの一員に任命され、一日でも早く事業を再稼働させなければならなくなった。思うように社屋や工場の建設は進まず、工程会議では職人たちからは「無理です」の一辺倒。期限と人手の板挟みに悩む中、最後には救いの手が。当地の建設業者が全国から100人以上もの職人を集めてくれ、何とか予定していた期日までに再稼働できるようになったという。
「2012年3月末で工事が終わって、一時的に帰休させていた社員たちを4月に呼び戻し、10日間の準備期間を経て、4月11日に再スタートを切りました」と、当時の出来事を話してくれた小野寺さん。受けた被害は甚大だったが、ひたすら前を向いて歩んできた4年半が充実していたからこそ、小野寺さんの表情は柔和だった。
 丸平木材株式会社で取り扱う製材の99%は杉だという。
「木にはそれぞれ良い特性があって、杉だけが良い木というわけではないんです。でも、日本はこれまで杉の植林を進めてきたわけですし、その杉を有効活用しないと日本の山は良くならないと思っています」
 そこまでこだわる杉には、いったいどんな魅力が秘められているのだろうか。
「たくさんある木の中でも、杉には調湿性能や空気清浄機能がある他、頭をすっきりさせるテルペン類、リラックスさせるセドロール、免疫力や造血力を高めるサイトカイン活性などを含み、その効能が科学的に突き止められています」
 そうした杉のポテンシャルをさらに引き出すために、丸平木材では「低温乾燥」に強くこだわっている。
「当社には“木の力を輝かせる”という理念があります。それを実現させるためにも震災以降、50度以下で乾燥できる低温乾燥機を導入しました。それによって細胞が壊れず、酵素が生きていて、精油成分が失われないという状態を保つことができ、調湿性能と空気清浄機能をより効果的に発揮させることができるようになったわけです」
 インタビュー後、50度以下で稼働する大型乾燥室内に特別に入れてもらうことができた。ちょっと酸っぱい香り、柑橘系のノド飴を舐めたときのように喉の奥にすーっと広がる清々しさなどは何とも心地よく、乾燥される木にとってもストレスフリーな空間であろうことが体感できた。そして、低温乾燥を終え、「加工された資材を撫でてみてください」との言葉に促されて触ってみると、意外にもかすかに少し湿った印象で、「それは精油成分が失われていない証拠なんです」と小野寺さんは教えてくれた。そして、手のひらにはほのかに杉の香りが残っていた。
 「山さ、ございんプロジェクト」では良質の南三陸杉を使って、デザイン性の高い家具やインテリアを含む内装空間をつくり、次代を担う人材を育成する“南三陸杉デザイン塾”というプログラムをスタートさせている。小野寺さんはプロジェクトメンバーであり、初代塾長でもある。
「『山さ、ございんプロジェクト』は、ムーブメントを起こすプロジェクトとしてたくさんの方々の協力の中、想像していた以上に躍動感あるカタチで進んでいると思っています。“南三陸杉デザイン塾”もそのひとつ。塾はまだスタートしたばかりですが、いろんな考えや価値観を持つ塾生が集まって、さまざまな切り口で発展しようとしています。
 南三陸杉デザイン塾は今後、南三陸杉が産業の一端を担っていくためのプラットフォームのひとつであり、そこからどんなプロダクトが誕生するのか、楽しみが膨らむばかりだ。
 小野寺さんは最後に「いくら言葉で発信しても伝わらないことがある。一番伝えられないのが空気感。100の言葉より、南三陸に来ていただくだけでともに一陣の風となれるんです。そして、もっとディープに山を感じてほしいですね」と話した。百聞は一見にしかず。ぜひ南三陸の地に足を運び、その魅力を全身全霊で感じ取っていただきたい。(文責:事務局)
丸平木材(株) 代表取締役 / 「山さ、ございん」プロジェクト実行委員 ・ 南三陸杉デザイン塾 塾長
宮城県出身、明治41年に南三陸町で創業した丸平木材株式会社 代表取締役(五代目)、南三陸杉デザイン塾初代塾長。東日本大震災で本社と工場が目の前で消失したが、約1年後に事業を再稼働。木や自然に関する深い知識と人の心を動かす情熱で南三陸の魅力を発信している。